【書評】”生存”優先ライフハック本:『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』

 

現実世界が自分に厳しすぎる…と思っている人のライフハック本、いいのありました。いい時代だ…。

発達障害当事者/グレーゾーン・極端なめんどくさがり・部屋もタスクも片付けられない・人疲れしやすい・他人の当たり前を当たり前にできない…世の中にはいろんなしんどさが存在していると思います。たとえば実際にADHDではなくても愛着障害があればADHDっぽい症状がでるらしいし、「診断をうけたことはないけれど、自分にはそういう傾向がある」と感じている人は、けっこう多いはず。

そんなコミュニケーションとタスクマネジメント、そしてメンタルケアに難ありの人はみんな読んだほうがいいライフハック本を見つけたので紹介したくなりました。借金玉さんの発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術です。借金玉さんはバリバリADHD+ASDの傾向もある営業マン。ツイッターでもなかなかハードコアな発言をされていて、界隈のご意見番として慕われている方です。

まず、著者がどういう人かの前提が大変にわかりやすい。自分が当事者という立場から、様々な失敗談を出して「こういう経験、大変だよね」と共感を示してくれているので、変に身構えずに読めます。たとえば、借金玉さん本人が経てきた飲酒+睡眠薬のコンボの危険、経営していた会社を潰してしまった話、二次障害の双極性障害、薬の服薬レビューなど。特に依存症や二次障害については、うつ症状の自覚のない人・前知識がない人が同じ轍を踏まないようにという気持ちを込めて詳しく書かれていて、その点が他の発達障害対処本とは全然ちがいます。

「自分はダメなやつだ」と一度思い込んでしまったらどうしても孤独感を持ちがちだけれど、そういう人に寄り添う雰囲気がこの本には満ちています。きっとこういう本に手をだす読者は少なからず悩みを抱えているわけだから、「自分だけじゃない、自分と同じように苦しんだ人でも乗り越える術があったから自分も大丈夫…」、そう思えるだけで大きな救いになるかもしれない。

この本は5章立てになっていて、自分の特性に合わせた生活改善からメンタルケアまでが網羅されています。

最初の2章では特に仕事場での効率化と人間関係改善、第3章では眠れない・身だしなみに気が回らないといった生活の問題解決、第4章では服薬についてと、発達障害持ちが陥りがちな依存症について、そして第5章ではうつ状態にならないための方法、うつ状態になったときの対処の仕方が書かれています。普通のライフハック本でなくて、とにかく「生きのびる」ために書かれた本だからこその構成。

困っていない人が読んでも、きっと「そんなこと当たり前じゃん」と思うライフハックばかりかもしれません。でも朝起きる、きちんとした装いをする、かばんの中を整然と保つ、物をなくさない、そういうことがとても難しい人が一定数います。

 (このツイート、めっちゃわかる。)

 

そういう人にとっては、全部が全部じゃないかもしれないけれど共感できる・学びになる部分があるし、気が楽になることが何よりいいです。

世の中で当たり前とされていることを真っ向から行うのに苦痛を感じていたら、それだけで疲れてしまって、自分のやりたいことなんかに手が回らないもの。この本は、だからといって人生を諦めなくていいし、他人と同じ方法を取らないでいいんだ、という自信をくれます。

それに生きづらさを感じる人は、知らず知らずのうちに、高すぎる基準を自分に押し付けていたりするものだからメンタルケアの大切さを認識せずに突っ走る人も多いはず。借金玉さんは『「死なない」は全てに優先する』と掲げ、自分を大事にするための工夫を教えてくれます。特に休息の取り方なんかは、当たり前なようで実は誰でも結構できていない部分だったりします。

あとは、書き味に人柄がにじみ出ていて、そこも面白い。なんだかちょっと、やさぐれている感じが…。たとえば『5秒でできる机の上を片付ける儀式』という部分の説明はこう。

①まず机の上に腕を置きます。

②次に、その腕を右もしくは左に大きくスライドさせます。

③大量に物が落下しますが、作業スペースだけは確保できるはずです。後から拾えばいいんです。

学者や医師の書いた本では、体面的にこうは行かないでしょうね…。当事者としてはハードルをいかに低くしてタスクをこなすかに苦心した結果なのだろうけど、読んでいて痛快。他にも、会社を一つの『部族』・会社での雑談を『通信プロトコルの相互確認』と捉えたり、絶対無くしてはいけないモノ置き場を『神棚』と呼んだりとユーモアが効いてます。部族っていう言葉は、わかりやすいかも。会社を異文化でのフィールドワーク調査だと思ってしまえば、当たり前を押し付けられている嫌な感覚からは脱出できそう。

以上のように、発達障害の社会人にとって必要なライフハックの大半はこの本に書いてあると思います。しかし借金玉さんとわたしのような人間で決定的に違うのは、彼は営業職で数字を取ることを生業にしている人だということ。この本は部族の儀式とかよくわからない茶番とかがゴロゴロしている社会の中で頑張って生き残っていく方を選んだ気概ある人に向けてのエールなのです。どうしても避けられない飲み会とか知らない人のところに契約を取りに行くこと事態がムリ!と言って家にひきこもるのを選んだ人間にはいささかずれている部分もあります。

のんべんだらりとした人間でしかも人付き合いも苦手だという場合には、この本と phaさんの本…たとえば『がんばらない練習』『しないことリスト』を合わせ技で読むといいのかもしれないです。

あとは、借金玉さんが男性だということもあって、女性目線だと若干もどかしいと感じました。新人時代の無難な飲み会対応は教えてくれても、ガールズトークとやら、トイレの化粧台前で繰り広げられる井戸端会議への対処法は教えてくれないので…。また紹介されているカバンが無骨で、女性のオフィスカジュアルなんかには合わないです。カバンに関しては、一応女性としてやってきているわたし個人のベストがあるのでおすすめしておきます。今のところのベストは、楽天SHOP・HAYNIのバッグ。これが、痒いところに手が届くという意味で、わたしには一番使いやすいです。かばんが自立する、十分な大きさがある、収納部分が分かれている、中が一目で把握できる間口の広さ、頑丈である、といった借金玉さん基準を満たしています。(PCがケース付だと入らない、というのが弱点なのだけど…)

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もし、とりたてて女性の特有の生きづらさも発生している場合には、もしかしたら姫野桂さん(発達障害グレーゾーンの女性ライター)の記事や本、精神科医の司馬 理英子さんの本が役に立つかもしれないのでぜひ一読してみてください。

とにかくこの本は、あとがきに精神科医の熊代亨さんが書いているように「社会のスタンダード通りに生きていけない人たちへの贈り物」みたいな本です。こうやって自分のしんどさを発信し、対策法を共有してくれる人がいる時代に生まれてよかった…。