【書評】少年の心の中から見るアフガニスタン:『君のためなら千回でも』

 

最近読んだ小説 「君のためなら千回でも」 が美しかったです。

舞台は1970年代、ソビエト進攻前のアフガニスタン。主人公はパシュトゥン人の少年アミール。パシュトゥン人は、アフガニスタンの支配者層を占める民族です。そんな彼が「家族で友人、だけど召使」のハザラ人の少年ハッサンとの交流・別れ、そして自分の父の愛情獲得の間で葛藤する様子が描かれています。

もともとは “The Kite Runner”というタイトルで、「凧を目がけて走る人」くらいの訳でしょうか。アフガニスタンでは凧揚げ競技が盛んで、アミールとハッサンも他の少年たちと同じように凧揚げに夢中になります。凧を相手から奪ったら勝ち。アミールが凧を揚げてライバルの凧の紐を切り、落ちていく凧を拾いにハッサンが走ります。その時にハッサンが言う台詞が、邦題になっている「君のためなら千回でも!」です。

アフガニスタンでハザラ人の置かれている差別的境遇、親友と自分の立場の違い、家庭の秘密、国内情勢の悪化、国を逃れた後のアメリカでの生活、そして親友の遺した子供を守るための闘い…。フィクションだけれど、とってもリアル。おびただしい数の難民となった人々の人生の多重露光を見ているみたいに。

そしてロシアのやってくる以前、タリバンの現れる以前の美しいアフガニスタンの情景。文字で紡がれる景色を想像して、そして「ああ、もうないんだ」と惜しむ感覚をおぼえて、それって死者との生前の楽しい思い出を繰るのに似ているなと思いました。

ネタバレしない程度に書くととても分かりにくくなるんですが、主人公と父親が戦火から逃れてアメリカに移住してからの苦境、その後再びアフガニスタンの地を踏んでから過去の恨みつらみと闘い、親友だったハザラ人の少年との絆を間接的に確かめ合う過程は、書き味は淡々と落ち着いているものの、内容はかなり過酷でした。

物語のプロットとしてはハッピーエンドに分類されるのだろうけれども、わたしにとってはすがすがしいエンディングではなかったです。しかし美しい異国の風景、人の欲する普遍的なもの、世界情勢とそれにまつわるミクロ的視点でのストーリー…様々絡み合ってこそ美味しい、洗練された読み物でした。

この小説は映画にもなっています。なんならイギリスでは演劇にもなっています。見たいな…。

いい感じの日本語付き予告編がなかったので、映画紹介番組をリンクしておきます。

映画も見たんですが、小説の言葉の紡ぎ方が、情景描写が美しくて、わたしは本の方が好きでした…。原文(英語)でいつか読みたい物語です。著者は、高等教育以降アメリカ在住のアフガニスタン人。だから原文は英語なんです。そうはいっても、英語で読むと日本語の十倍ほどの時間がかかる上に疲れるので、なかなか手が伸びない…。仕事で使ってる言語でもまだまだそんな感じなのが悩み。

小説の読了後アフガニスタンの民族構成などについて読みながら、自分がイランに行った時のことを思い出していました。イラン旅行中にビザセンターに行ったんです。そこで、たくさんの「中国人風の見た目だがアフガニスタンのパスポートをもったひとたち」をみました。今思うと、彼らがハザラの人々だったんだろうなと思います。

大学から逃げ出してバックパック旅をしていた時のエピソードが、ことあるごとに思い出される最近です。